シアワセのカタチ
想いは募っても、それでもこの幸せは長く続くものじゃないことはわかってる。
好きや嫌いの感情だけでは生きていけないこともわかるようになっちゃたからさ。
悲しいぜ。
「正輝?」
声は甘く、俺を眠りから起こす。眠い目を擦り、声に反応する。
「・・・ん?どうした?」
「・・・魘されてた」
「俺が、か?」
聞き返す俺に瑞希は頷く。そして優しく俺の髪を撫でる。
コイツは俺を甘やかし放題で、俺もその行為に甘えている。
優しいのがわかっているから。
素直に反応してくれるから。
「んで、オマエを起こしちゃったのか。ごめん」
謝ると瑞希は首を縦に振り
「・・・なんかあった?」
と、問われる。何かあったかと聞かれれば
「何にもない」
としか言えない。瑞希はそれで納得するとは思わない。
でもコイツは俺が何もないと言えば何もなくなる。
「寝ようぜ・・・明日も学校だろ?俺もだし」
「・・・うん」
また二人で眠りに就く。隣で瑞希の呼吸を聞きながら今日の出来事を考える。
今日、俺は友人の結婚式に出席した。
結構歳を取ったとはいえ、仲間が集まればあの頃となんら変わらない会話に花が咲く。
不意に仲間の一人が口にした。
「あの頃はよかったよな。好きとか嫌いとかだけで何もかも決められたんだからな」
つられた周りは口々に
「そうそう。今は色んなメリット考えて、それなりの恋愛しかできねぇもんな」
そうだ、確かに若い頃は(性格には子供か)何にも考えずに可愛ければ好きになった。
女の子の柔らかい感触が欲しくて、仕方なかったのを覚えてる。
でも、今の俺にはそういった感情はない。
仕事に疲れ、恋愛は後回しで。
・・・でもコイツはどうだ?
まだ、これからじゃないか?
これから俺がその時味わった甘酸っぱい経験を積んでいくんじゃないか?
そうしたら俺が邪魔じゃん。
そのことに気付いて、そのことばかりを考えて後の話はまったくといって良いほど聞いていなかった。
俺が好きなことで、好きになったばっかりにコイツの明るい未来を邪魔してるんじゃないかってそう思った。
大学生だし、可愛い子の一人や二人いるんじゃないか?
本当はそんな人がいるのに俺に遠慮してるんじゃないかとか。
(だから、魘されてたのか・・・俺って脆いな)
やっと眠りに就いたのにそんなことばかり考えてまた眠れなくなった。
横で気持ちよさそうな寝息を立ててる瑞希を見る。
俺はコイツに『好きな人が出来た』と言われたら『はい、そうですか』
と潔く引くことができるのか・・・・・・
考えて、涙腺が緩む感じがする。
もう今更、コイツの手を手放すことが出来なくなってしまったんだ。
始めとは明らかに感情の重さが違う。
コイツを好きで好きで・・・不毛な関係かもしれないが好きで好きで仕方がないんだ。
八つも下のコイツなしのこれからが想像できないんだ。
「・・・正輝・・・泣かない・・・で」
「・・・―――ッ」
「・・・やっぱり、なんかあったんだ」
「・・・瑞―――」
「結婚式・・・見たから?」
何のことだ?何を言ってるんだ?目が慣れてきたとはいっても暗がりの中、表情は読み取れない。
「・・・オレとじゃ結婚もましてや子供も無理だから――」
「って、何言ってんだよ」
「何って・・・正輝の気持ち」
「バカヤロウ。そんなこと思うわけねぇだろ。そうじゃなくて・・・」
少し間を空け、話を続ける。
「俺が瑞希の将来邪魔してるんじゃないかと思ってさ。瑞希は俺より若くて、大学生で、未来に満ち溢れてる。
それとは逆に俺はオッサンじゃんか・・・それ考えたら、さ」
情けないけど思っていたより、素直に言葉が出る。
でもこれ以上は何も言えない。何も出てこない。
「正輝はバカだね・・・」
「なっ――」
言い返そうと思ったら、瑞希に包み込まれた。
「僕は今以上の幸せはないと思ってるよ。これ以上幸せになれるんだったらこの先も正輝と一緒にいたい」
そんなこというなよ。胸が痛くなるじゃないか。
これ以上苦しくなったら死んじまうってぐらい胸がつまった。
「だから・・・泣かないで」
弱い俺を許してな。こんな言葉しかでてこない。
「バカヤロウ」
「うん。とりあえずはバカでいいかな」
「本物のバカだ」
「そうかもしれないね」
なんて。俺の立場がないじゃないか。コイツにこんな態度とられてたらさ。
「・・・明日も早いからもう寝るぞ」
という俺の言葉に少し腕の力を強め瑞希が言う。
「泣いちゃう正輝も可愛いけど、出来ればいつも笑ってて欲しいな」
「バカが・・・」
そう言いながら背中に回した腕に力を込めた。
きっとコイツとなら少なからず俺の未来はどこの誰よりも幸せなものになるかもしれない。
だからコイツにも俺と同じ気持ちになってもらいたいから。
とりあえず、前向きに、と気合を入れた。