ハッピーエンド



「……誕生日、おめでとう…」
「うわっ――と…急に現れんなっ!」
突然の出来事によろけそうになる。が、そこを斑目が支えた。
「…待ってた」
「だから会話になってねぇし」
「…なってない?」
―――と、顔を覗き込まれて近い距離に思わず赤面してしまう。
「顔、赤い…」
「っるせー、酒飲んで来たんだから当たり前だろ!」
「そうなんだ…」
って、マジで顔が近い。この距離はまずいような気がする。しかも、このシュチ ュエーション。斑目にすっぽり包まれてるオレ……うん。情けない。
「つか、何してたんだよ?」
「だから…誕生日おめでと」
「ん?だから―」
と、話を続けようとするオレの言葉を遮り斑目が珍しく喋る。
「プレゼント持ってきた」
そして――一番におめでとうを言いたかったと。何だか嬉しいやら恥ずかしいや らと酒の力もあり、まずいはずなのに
「…まぁ、入れよ―相変わらずきたねぇけど気にするなよ!」
と言うオレに向かって「知ってる」とだけ言い、部屋に入っていった。
そういえば斑目の誕生日もオレの部屋だった。その時を思い出して赤くなる。
斑目はといえば当たり前のように部屋に進んでいき、前と同じところに座る。オ レは真っ直ぐ狭いキッチンに向かい、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
(どうせ、聞いてもいらないとか言うんだろうな)
とは考えるが、客人にお茶のひとつも出さないわけにはいかない。
「何、飲む?」
「…ビール」
「おっ、ビールか!いいな。……ってお前未成年だろうが!」
「…突っ込んだ」
「突っ込むよ!」
オレはこれ以上聞いても意味がないのでお茶をグラスに注ぎ持って行く。
「で、肝心のプレゼントは?」
「……はい」
と、小さな紙袋を渡された。こんなところが可愛いとか思ってしまう自分がヤバ イと感じる。
「サンキューな」
と、ガサガさと袋を開ける。中には黄色い首輪。
「……ん?なんだ、これ?」
「…子犬用の首輪」
「って、オイ!ふざけるな!!」
「…ほら、キャンキャン騒ぐし…ピッタリ」
コイツを一瞬でも可愛いと思ったオレを抹消してください。がっくりうなだれる オレを見て笑ってるのか笑い声が聞こえる。
「嘘…冗談だよ」
――その微笑みは反則です。またしても可愛いと思ってしまったじゃねぇか。
「冗談って、ちゃんとあるのかよっ?」
赤い顔を隠すように背中を向ける。その瞬間――またしてもオレは斑目の腕にす っぽりと包まれた。
「な、な、何して―」
「耳まで…真っ赤…」
「っせー!」
耳元で囁く。
恥ずかしい。年甲斐もなくときめいて顔が赤くなるのを止められない。
「…可愛い」
「可愛くねぇ…よ」
耳元で囁く斑目を意識しすぎて、どうすることも出来ずにうつ向いた。
「プレゼント……ボクをあげる…」
そういったと思ったら斑目は首を耳に擦りつけて更に小さい声で囁く。
「…貰ってください」
更に近くなった斑目が耳元で…反則です。こんなことされたらノックアウトだ。
「あー、もう…これ以上オレを本気にさせないでくれよ」
オレは腹を決めて斑目の方を向く。
「嫉妬するし、ワガママだし……それでもいいのかよ?」
真剣に話してるオレを斑目は物凄い笑顔で見てる。そして 「ボクも…ワガママ…先生以上に…嫉妬深い」
そう言った斑目の唇がオレの唇を塞ぐ。そしてまた囁く。



「ボクを……貰って……もらってください」



その言葉にどんな言葉を綴ればいいんだろう。この言葉にならない感情を伝える には……そこまで考えて身体が勝手に動いていた。
斑目に手を回し、自分に引き寄せ今度はオレが伝える番だ。



「後悔すんなよ、瑞希」



名前を呼んだ瞬間――回した手が少しだけ震えていたのは(気付かれてると思うけ ど)内緒の話。