密室+二人きり=(結構)限界



暗い道を全力で走る。
例えば待っている相手が男でもかっこいいと思ってくれる人はいますか?





走っている途中に真田は気付いた。
(オレ、斑目んち知らない……)
慌てて携帯を探すが生憎持ち合わせてはいないようだ。
(畜生ぉ。カッコ悪いったらありゃしねぇ)
肩をがっくりと落とす。そしてこれからどうするかを立ち止まり悩む。が何も出 てこなく結局家に帰って携帯をとってくるのが早い、という所に行き着いた。
「こういう所が情けねぇんだよなぁ」
一人呟いても空しいだけで
「取り合えず、急ぐか」
と、走り出そうと振り向いたら何かにぶつかった。
顔をあげるとそこには
「ま、斑目っ?!」
斑目が立っていた。
「なななな、なんで…」
「オレ…の家、知らないと思っ…て」
「………」
「今日……きたから…憶えてた」
淡々と途切れ途切れで話す斑目を真田は直視できない。恥ずかしさが足の裏から 頭から沸いてきて今にも沸騰しそうなぐらい赤くなっている。
(暗くて助かった……)
恥ずかしさの中で真田はそんなことを考えていた。



とりあえず連れてきたのは真田の部屋。あの暗がりに男、二人立っていたら間違いなく不審者に見られる。
「まぁ、上がれよ…汚いけど」
「…うん。汚…い」
「ぽつりと傷付くこと言うなぁ…」
そんな真田の突っ込みは勿論スルーされる。そして比較的綺麗なソファ付近に斑 目を座らせ
「なんか飲むだろ?…っても洒落たもんは何もねぇぞ」
「別に…いい」
「そ…か。んじゃトゲーは何か飲むか?」
会話に詰まるのが嫌で真田はトゲーに話しかける。勿論、斑目や草薙みたいに話 ができる訳ではない。だが、トゲーはわかるらしく
「トゲー、トゲー」
と何かを言っている。
「トゲーは水が飲みたい」
斑目が珍しくはっきり口を開いた。
「わかった、わかった。水な」
(トゲーの会話は答えるんだよな)
なんてことを思いながらキッチンへ向かう。何にも要らないと言われたとはいえ 、何も出さない訳にはいかず真田は冷蔵庫からいつ買ったかわからないジュース を取りだし、賞味期限を確かめ部屋へと向かう。
静まり返った部屋は何か居心地が悪く何とも言えない空気が漂っていた。
「そ、そうだ。歌でも聞くか、歌でもっ」
とっさにつけてしまってから思い出した。
(しまったぁ……さっきのままだった)
そう。出かけ前に聞いていたラブソング。これを聞いて凹んでいたのにまたかけ てしまった。更に無言になる部屋をグルグルと歌が回っている。
「……もっと明るい――」
「待って。この曲好き」
別の曲に変えようと手を伸ばしたらその手を斑目に掴まれた。
「……」
言葉が出ない。何を考えてるのかと言われたら何も考えてなくてただ、掴まれた 手が熱くて仕方ない。
「…洋楽なんて聞くんだな。予想外」
「……洋楽しかないから」
淡々と続く会話。でもまだ斑目から真田は解放されないまま。
「……今日……誕生…日」
「ん?」
「誕生日…」
「誰の?」
「……ボク…の」
「はぁ?!お前、誕生日なの今日?」
真田の驚きに首を縦に振る斑目。無言のまま少し見つめあうが真田が恥ずかしさ に負け目を反らす。何かををきっと望んでるのが真田には何と無くだがわかった 。だが、あまりに急すぎて誕生日に似合うようなプレゼントはこの部屋には置い てない。
シドロモドロになっている真田には斑目が
「別に…何もいらない」
そして握られていた手を引かれ抱きかかえられる体勢になり、耳元で囁かれた。
「ただこうしてられれば」
真田は斑目に抱きしめられながらこう願った。
(神様。どうか心臓が壊れませんように)
そして一生懸命響く心臓の音を押さえながら
「とりあえず……誕生日おめでとう」
斑目の顔が見えないことを少しだけホッとした。顔が見えてたら言えない言葉だ ったような気がしてならなかったから。
帰りに触れた手より少し体温の高い斑目を感じながらそんなことを思った。