温もり+寂しい=逢いたい
今までの誰よりも低い体温に触れて
今までの誰よりも温かいと感じてしまった
オレは道を踏み外してますか?
(なぁにやってんだ!オレはっ!!)
家に帰ってから頭を抱え、床を転げ回る。どう、この情けなさを表現したらいい
かわからない。
真田は家に帰りついてからずっとこの状態を繰り返していた。
理由はひとつ。あの問題で斑目が全問正解を取ったからだ。全問正解の褒美は『
手を握る』だった。そしてその行為は一瞬ではなく『帰り道ずっと』だった。
幸い、もう日も暮れて人影もまばらだった為誰にも見られなかったが真田は自分
がとんでもないことをしているのに気が気じゃなかった。
(オレは先生でコイツは生徒。しかも――男だ)
何度も自分自身にいい聞かせたのにも関わらず心臓は意識すればするほど高鳴り
、顔は赤くなる。そして駄目押しは
「………ほっとけないから……送って…いく」
真田はそのまま家まで送られてしまった。生徒に心配されたあげく、いいとこあ
るじゃねぇか可愛いかもとか思った自分を後悔してはまた転がり。チラッと目に
入った斑目がうっすら微笑んでいたのをみてまたときめいた自分を思い出しては
また転がり…を繰り返していた。
「あーーーもう、どうしよう」
もう心の中には収まらなくなり、思わず声に出してしまった。
「あーーーもう、ダメだぁ」
真田は寝転がったまま、手を上に向けた。まだ感触の残っている自分の手を見て
また顔が熱くなる。
(あー、オレ一人こんなにドキドキして……アイツはまったく涼しい顔しやがって
…チクショー)
そんなこと考えてはまた床を転がる。
「そうだ!」
こんな時は音楽でも聞こうと思い立った真田は寝転がったままプレイヤーの前に
行きスイッチを押す。そして流れてきたのは心地いい洋楽。目を閉じてその歌に
耳を傾ける。
(しまった……)
流れていたのはめちゃくちゃラヴソングで何だか胸に刺さる。選曲すらミスった
自分に落ち込む。
「好き、になったのか、な」
自分が自分を一番知っている。好きな相手を見つけるまでは長く、恋をするまで
の速度は人一倍早く、そして冷めにくい。例えそれがどんな相手であろうと。で
もまさかその相手が生徒でしかも男だなんて…ついてるのか、ついてないのか。
「また、実らないのか…」
突っ走って、失敗してを繰り返しているここ数年。恋を控えてきた自分へのしっ
ぺ返しのように感じてきて何だか泣きそうになった時、床から振動が伝わる。
(電話だ…)
誰だろうとまた転がりながら携帯のところまで行く。ディスプレイには知らない
番号が出ている。あまり知らない番号にはでないようにしているが、いつまで鳴
り続けるから仕方なく通話ボタンを押す。
「はい、もしもーし」
やる気なく出た電話の向こうから聞こえてきたのは
《……先生?》
斑目の声。真田は飛び起き、意味もなく正座をしてしまっている。
「な、なんだよ。誰に聞いたんだよ、オレの携帯」
《……南先生》
「……そか。で、なんだよ」
《……》
聞いても無言のまま。少しだけ手が震える。
「斑目?聞いてんのか?用、あんじゃねーの?」
《……用…さみし…がってないか…思っ…て》
途切れ途切れに聞こえる声が真田の心臓をどうしようもなく絞めつける。
(コイツ……なんで)
「なんだよ、斑目。オマエ寂しいのかっ?ははっ」
素直じゃない。まったく素直じゃない。自分でも呆れるぐらい強がるしか出来な
い。冗談めかしていったセリフ。今の真田の精一杯の強がり。
《……うん、さみ…しい》
何なんだ。どうしたらいいんだ。オレは――・・・
《……逢いたい…って……ワガママ言って……》
声が小さくて聞き取れないぐらいの本当に小さい声で斑目が言う。
本当に面倒・・・面倒だけど真田は
「いいよ、逢ってやる」
力強く斑目に伝えた。その心は『恋をしてやる』ともちろん誓って。
薄手のジャージを取り勢いよく玄関を飛び出した。