再確認+無口= 前途多難



あの一件以来、オレの視覚はくるってしまったみたいです。


「なぁ、真田ちゅあーん。今月の病院代なくなっちゃったんで少ーしだけ、お金 貸してっ」
「……はぁ」
葛城が可愛くないのに猫撫で声で真田に話しかける。もちろん給料日前にはよく みられる光景だったりして。でも話しかけられた当の本人真田はまったく聞いて ない。聞こえるのは、溜め息ばかり。
「どうしたん?真田せんせは?」
葛城は真田の顔を覗き込んだ。すると後ろから
「恋煩いですよ」
と、衣笠が声をかける。
「恋煩いぃぃ?!」
葛城のすっとんきょな声が職員室に響きわたる。
「葛城先生…うるさいですよ」
「いっ………てぇ、鳳様ー、ヒデェよ」
「大きな声だしてるからでしょ。それよりも……今月ももうすぐ終わりますね。
用意はいいですか?」
「あー、あー…っとオレはっ―――」
と言っている葛城の首ねっこを容赦なく掴み、鳳は衣笠に
「こっちは回収していきます。あとはお願い致します」
とだけ伝え、去っていく。衣笠も
「お疲れ様です」
と笑顔で二人を見送る。そして真田に向かい
「そんなに気になりますか?斑目くんが…」
「は――はい?」
「顔に書いてありますよ。恋をしました、と。フフフ」
フフフと笑われても困りますとは言えない真田は只々苦笑い。だけど
「っ……てその話、誰から―…?」
嫌な予感はした。したがあえて聞いてみる。
「えっ?そんなことは愚問ですね。風門寺くんですよ」
やっぱりと肩を落とす。
「確に綺麗だったですよね、瑞希くん」
駄目押しにB6担任の南にも言われる。
「…と、いう訳で今日の補習を真田先生変わって貰えませんか?」
「―――いや、いやっ。と、いう訳での意味が…」
「二人っきりになれますよ」
なんて酷い、と肩を落としきる。衣笠にも言われてしまったら真田は断るに断れ ない。
「わーかりましたよ、わかりました。行ってきたらいーんでしょ」
もう諦め半分で席を立ち、南先生から今日の補習分のプリントを貰い、真田は教 室に向かった。




「あ……ヘンタイだ」
教室のドアを開けると同時に発せられた言葉。
「誰がだっつーの」
と、半ば切れ気味に斑目に返す。ちらっと目をやるとじっとこっちをみてる。一 気に顔に血が集まるのがわかる。恥ずかしくなって
「オラオラオラ、問題持ってきたからやりやがれっ」
と、ぶっきらぼうにプリントを斑目に渡す。
「トゲー、トゲー」
「………ね」
いつも斑目が連れてる白いトカゲのトゲーが鳴き声を発すると斑目はわかるのか 何かやりとりしている。
(なんなんだよ。何が『ね』だ)
ふてくされている真田とは対称的に真面目にプリントに目を通している斑目。そ の横顔をみて、またあの時のような感情が胸に沸いてくる。ドキドキして心臓が 飛び出しそうな。
(……つか、二人きりなんだ、な)
意識し始めた感情は止まることなく真田の心臓を高鳴らせる。ぼんやり斑目を眺 めていた真田に
「……ねぇ」
と斑目が話しかける。びっくりしてすっとぼけた声を出しそうになるのをぐっと 飲み込み
「な、なんだっ。質問か?」
「この問題………全部正解だったら手を握ってもいい?」
「なっ………何、なんだっ、罠か?」
「……罠?なに?」
「い――いや、そうじゃなく」
「………嫌なの?」
「いや、その嫌じゃなく……いや、だから」
「……トゲーより、言葉ヘタ」
「……………」


話が伝わらない。何なんだ。何を企んでるんだっ。罠以外で斑目がそんなこと急 にいう訳がない。真田は赤くなる顔と高鳴る心臓の音が嘘かホントか知らないが 斑目を意識し、本当に『恋』をしていると確信するには十分過ぎる結果だった。