右手
(動きたくない…)
身体のだるさはピークを向かえ、節々はきしむように痛い。
多分、熱がある…何を食べた方がいいのは分かるが何もしたくない。
こういうときの独り暮らしは厄介だなとも考えるが……オレの場合は誰かがいたとしても何も変わらない。
少し暗くなりかけた時、いやらしいぐらいにチャイムが鳴った。
こんな風にチャイムを鳴らすヤツをオレは一人しか知らない。
暫く無視をすれば諦めてかえるだろうと……帰るだろうと思ったオレが間違いだった。
ヤツが帰るわけがない。
(ブッ殺す……)
と、思いながらも近所迷惑を考え、無理矢理身体を起こす。
急に起き上がったせいかクラクラする。そのままふらつきながら玄関行き鍵を開ける。
「キシシ、ナァナちゃん」
やはり居たのは仙道だった。
オレは仁王立ちする仙道を今すぐにでもひっぱたき
たかったが、今はそんな気力がない。
「……なんだ…今日は」
と憎まれ口を叩こうした瞬間――どうやらオレは限界だったらしく、目が回り意
識が遠のいた。
「おっと、ナナ…今日はおとなしくしてやがれ」
朦朧とする中で、普段の仙道からは聞くことが無い台詞が聞こえたような気がし
た。
◇
「………ん…っ…」
目覚めるとオレはベットの上にいた。
あの後、オレはどうやって――それより仙道は?と身体を起こす。
その時、右手に重さを感じた。見るとオレの右手に仙道の右手が重なっていた。
テーブルの上には数種類の風邪薬とミネラルウォーター。
(風邪を引いたのを知っていたのか…)
オレは少しだけ嬉しかった。
オレの周りにはこんな風に形にして心配をしてくれる人はいなかったから。
安心したからかまた眠気が襲ってきた。オレは繋がれた
右手をみる。
(もう少しだけ…)
そう眠りについた。