温度は限りなく近く
例えどんなにおちゃらけて取られても好きなもんは好きでしょうがない。そこは
惚れちまった方の負けってことで。
「衣笠せーんせー、冷たい」
「何をおっしゃいます、理事長」
「ほぉら、冷たい」
「いいえ。当然の態度ですよ」
「ケチ」
前々から知ってたはずなのに俺が理事長に就任した途端態度が激変した。笑顔は
相変わらずだけどどこかよそよそしくなり、敬語まで使う始末。
「理事長。特に用はないんですね?それでは私は授業もあるので失礼します」
「あーー、待っ………て」
バタン、と空しく響くドアの閉まる音。呼び掛けは届かず結局、部屋に一人。
虚しい。
前は同僚(まぁ、ゴミのように)として扱ってくれていたのに今は全くそんなこと
もなく物凄く距離を置かれて接しられてる現状にそろそろ寂しさも感じ始めてき
た。
顔を合わせるのは何にも内容のない話ばかりする校長や教頭。生徒とだってまと
もに話が出来ない。しかも、愛する人には距離を置かれてる。
「あーあ、つまんないー」
と大きな机に足を上げた。おまけに欠伸。その時胸ポケットに入ってる携帯がメ
ールを告げる音を鳴らす。
「誰ですかー?こんな時間に連絡してくるのは」
なんて独り言を言いながら携帯を開き、メールボタンを押す。押した瞬間悲鳴が
上がった。
相手は衣笠先生だった。
内容は
『帰り、裏で待ってます。言っておきますが、私の時間は高いですよ』
と、いうごくシンプルな文章。これだけで今日一日ハッピーに過ごせそうな俺は
なんて安い男なんだろうか。……いや、安くない。衣笠先生も高いって言ってる
じゃないか。
俺は何度もメールを読み直し、ギュッと幸せを噛み締めた。